A View of Tanichu (たにちゅーの思惑)

This blog is about personal thoughts and views by Tanichu. Tanichu is a nickname of Tadahiro Taniguchi.

猪瀬直樹「さようならと言ってなかった」

 元東京都知事猪瀬直樹石原都知事の国政進出に伴い,まるで禅譲のような形で,後継指名され,都知事選挙圧勝で都知事へ.東京オリンピック開催を決めた他,副都知事時代からの積極的な政策でグイグイと東京を引っ張っていった.

ところが,あっという間に借入金問題でマスコミや議会に突き上げられアレヨアレヨという間に引きずり降ろされてしまわれた感がある.(その後の選挙では舛添氏が都知事となったが,石原・猪瀬時代から比べると格段に発信は弱くなっている気がする.)

さようならと言ってなかった わが愛 わが罪

さようならと言ってなかった わが愛 わが罪

 

 さて,本書は,猪瀬さんの最新作であり,東京オリンピック招致合戦の頃に亡くなられた妻・ゆり子さんとの思い出が中心に綴られている.相変わらず,文章がよいなぁ,と思いつつ一気に読んだ.

 表紙で得るイメージとのギャップを中心に説明しよう.本書はむしろ「自伝」の色彩が強い.どういう風に,猪瀬さんが,ゆり子さんと東京に出てきたか?そこでどういうふうに頑張って作家としての成功をおさめるために頑張ってきたか,それを,ゆり子さんがどのように支えたか,といったあたりが書かれていく.まさに,30代の頃のもがいている様子などが綴られていて,なんとなく自分の現状を重ねてしまった.時代が現在と過去を行ったり来たりしながら進んでいくあたりは,小説っぽい構成で引き込まれる.

 猪瀬さんのプライベートな話ばかりかとおもったら,東京オリンピック招致や,都知事選,5000万円問題の舞台裏なども書かれており,さすがの渦中の本人視点での記述からニュースの裏側的な状況が読み取れて面白かった.

 

 猪瀬さんには副都知事時代から「ビブリオバトル首都決戦」(現・全国大学ビブリオバトル)の立ち上げにご尽力いただき大変お世話になった.いまでこそ,ビブリオバトルは各都道府県の教育委員会等の手によって,自治体開催がなされたりしているが,普及が始まった2010年の段階で,いち早く目をつけ,全国大会レベルのものにまで引き上げた,猪瀬さんには先見の明があったと言わざるを得ないだろう.

 実質,東京都主催の最後の大会となった2013年の「ビブリオバトル首都決戦」は,いわゆる「5000万円問題」の渦中にあった.さすがに執拗なメディアの攻勢に随分と疲れた顔をされていたのが印象的だった.しかし,今から振り返ると,その時の疲れた顔は,妻・ゆり子さんを亡くされた影響も大きかったのだろうと思う.

 

しかし,猪瀬さんの本を読みだすと,1ページ目から「ははー,参りました・・!」ってなる時がある.僕自身,書籍は単著で4冊書いているし,平均的な人や平均的な理系研究者に比べると,それっぽい文章を書ける方なのではないか?と思っていたりもするが,なんだか,しばしば猪瀬さんの文は表現力が段違いに感じる.

政治家としてのお仕事はアクシデンタリにではあるが,一旦終えられたわけだが,是非,これからは常々言っておられた「作家」として再び活躍していっていただきたいし,また,新作を楽しみにしたい.